セルフコントロールの心理学

セルフコントロールの心理学 (講談社現代新書 (1494))セルフコントロールの心理学 (講談社現代新書 (1494))
生月 誠

講談社
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読んだ感想は、まぁ心理学的な内容って話半分がいいよねというところ。ただ、類書が多々ある中でなぜこの本を選んだのかをまず先に。


■学問の心理学に立脚している
どこかの偉い人が自らの体験談を語る本は相性がとても大事になります。相性が合えば自らの心に響きますが、相性が悪かった場合は飲み屋で上司の説教を聞いてる構図となんらかわりのないことになります。学問は相性とは関係なく、事実をもとに論理で構成されます。全ての人に適用されるように客観的な事実を論理に基づいて構築した結果ですので、理屈が理解できる人なら誰でも説得される仕組みになっています。僕はかなりのわからんちんですので、体験談よりもケース、症例を網羅、分析した本書を手に取ることにしました。

■人のせいにしない
心理学は幼少期のトラウマや、両親との関係を非常に重視します。よく心理学を勉強した人に陥りがちなのはこのトラウマ、親子関係にフォーカスしすぎて「子供のころから自分はこういう人間だったのでいくら頑張っても無駄である」「両親がああいう人物だったので、今の自分がうまくいかないのは両親のせいである」というように考えてしまうことです。換言すれば心理学を諦める道具、責任転嫁をするための理屈として使用してしまう人がいます。僕もそう言われれば親のせいとか子供のころの環境のせいにしたくなっちゃうたちなので、そのような責任の逃げ道をつくるような解説をするのではなく、今、自分に何が出来るかに焦点をあてているという理由で本書を選びました。

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前置きはこの辺にして、本書で納得したことや面白いと思ったことは以下の通り。

■自動化
人間は良い感情を持てた行動を繰り返したがり、嫌な気分になったことをやりたがらなくなる傾向があります。この様に過去の経験に現在の感情が引きずられるコトを「自動化」と呼ぶ。パブロフの犬がイメージに近い。
本書の内容の大半は「良い感情を引き起こす自動化はどの様にすれば設定出来るか」ということに項が割かれており、具体的な方法も詳しく記述されている。

■良い自動化
リラックスしている時に人の能力は最大化する。つまりいつでもどこでもリラックス出来るということはセルフコントロールを成功させるためにとても重要なことである。
そしてリラックスした感情を生み出すのに自動化は便利に使うことが出来る。かつて持ったことのある「よいイメージ」を利用することになる。ガムを噛みながらだと集中出来る人はガムを噛むと今にも心地よい集中力が宿るだろう、集中力は多くの場合成功をもたらし、良い気分にさせてくれる。リラックスして物事に取り組むことが出来、うまくいけば「ガムを噛むとイケる」という心の働きを強化することが出来る。

この心の動きを利用してリラクゼーションを起こすのが良い自動化である。良い気分を催す行為を準備しておき、成功したい際にリラックスのためにそれを行う。リラックスした状態で行うために物事はうまくいき、良い自動化作用はさらに強化されるという仕組みである。「かならずうまくいく」と何回も唱えたりする宗教じみたアファメーションが依拠しているシステムはこれである。成功体験を捨て去るのではなくうまく利用すして新たな成功体験を生み出す考え方だ。

まずは「リラックスしてそれに取り組む」ということを最優先すべきとなる。それを繰り返していると「それに取り組むとリラックスする」という自動化が起こるからである。

■良い自動化(2)
ガムがなければリラックスできない、思う存分叫ばないと自信が湧いてこないという性分はかなり不便であるため、本書では「気分がリラックスしている時にやること」を決めておくように進めている。こぶしを握る、口角をあげてみるなど。手軽にリラックスが出来る方法を持つのは良いことである。




■悪い自動化
たとえば、会議ではいつも緊張してしまう人がいたが、ある会議では立ち上がって発言をすることが求められた。立ち上がって発言したときはいつもとは違い幾分リラックスして発言が出来た。
この様に苦手意識をもってしまっている行動に対して少し修正して取り組むことで、悪い自動化、パターンから脱却出来るという例がある。

□悪い自動化の習慣
悪い自動化を起こしやすい人に共通するして「うまくいかなかった原因」を自分の普遍的な部分に帰す傾向がある。たとえば「あの人とうまく話せなかったのは幼少期のトラウマが原因だ」などのようにである。実際には相性の悪い人ひとりと話しただけなのに、幼少期の自分のせいにすることによって世の中の人すべてとうまく離せないかのような錯覚に陥るのである。
実際にはあの人とうまく話せなかったのは知らない分野の話題になってしまっていたこととか、トイレに行きたいのを我慢して話していたことなど、原因は小さいことのほうが普通である。
この考え方は「すべて苦手だ」というような意識すら生むために悪い自動化を他の他の行為にも拡張しかねない。


■悪い自動化(2)
悪い自動化とは、不安や恐れなどの悪感情が反射的に生まれる行為であるが、この悪感情自体への考え方を変えることで悪い自動化を抑制することを勧めている。
たとえば、不安な気持ちをいだいた時には「不安は自分へのアラームであり物事を正しい方向に進ませようとする心の動きである」と考えてみることで「不安=マイナスな状態」という観念を弱め、悪感情を減らし、悪い自動化の効力を弱めることができる。
無気力、緊張、恐怖など、悪い感情が浮かんで来た時に「その感情の良いところは何か」と考えてみることはストレス耐性を向上させる効果がある。




■心の開く
たとえば、山手線沿線が生活圏の人にとっては、駅のホームで不思議な言語をしゃべるトロールみたいなモジャモジャのおじさんをみたことが少なからずあると思う(僕はだいたい半年に1回ぐらいで見る)
彼は自らの心を言葉に
のせてわめいてはいるが、心を開いている状態とは言えない。
このことからどの様なことが言えるかというと、「心を開く」とは「自分の言いたいことを、相手に伝わるように話す」ということであり、ただ喋るという行為には帰属しないということだ。

「人の力を借りることが出来る」という面で、心をうまく開けるようになることがセルフコントロールの一番の近道であると思う。


人間の自動化作用をうまく利用しながら日々楽しく生きていきたい。